インタビュアー:
働くスタッフを想われての託児所ということでしたが、保険や出産・育児関連の制度について、他のサロンさんと違う点などがあればそのあたりのお話を聞かせてください。
古藤さん:
まず僕の考えなんですけど、よく(求人サイトなどで)見る「育児休業あり」とか「育児休養制度あり」などはあまり意味がないと思っています。
インタビュアー:
それはどうしてなんですか?
古藤さん:
なぜならこれは、「子供を出産したり育てている間は休んでもいいですよ」ってことですよね。
こんなの当たり前のことじゃないですか。休んでもいい制度というのは当たり前であって、要は「お金がもらえるのか」という部分が大事だと思います。
出産手当金だったり育児休業給付金とか色々ありますけど、申請さえすれば受け取れるようにウチではキチンと完備しています。
インタビュアー:
なるほど。
古藤さん:
例えば色んなやり方があると思うんですけど、実際に求人サイトとかを見てみると、産前産後90日までなどやっていたりするじゃないですか。
こういうのは他のサロンさんでもちゃんとあると思うんですが、その前に辞めてしまった場合、そこで終わってしまうんですよね。
実際は、本当につわりがひどいなどそういう理由であれば、その間でも会社に在籍しているとそのお金はもらえるんです。けれど、「やめます」って言ってしまったら「じゃあはい、お疲れ様です」と終わってしまうんですよ。
現実的にその後戻ってくる人の確率は低いので、辞めますって人にわざわざ席は置いといた方がいいよって言う必要はないですよね。
なぜなら引き留めてしまうと、会社側に保険料がかかるからです。
インタビュアー:
確かにそうですね。休んでいる間の費用を考えて、戻ってくる確率も低いとなると、正直引き留める理由がないかなと思ってしまいます。
古藤さん:
はい。けれど僕の考えとしては、会社が数万円払ってあげるだけでその子達が何十万とか何百万貰えるのであれば、払ってあげようって。
色々やり方はあると思うんですが、何ヶ月間か出してあげれば出産さえしてしまえば健康保険料などは国持ちになるじゃないですか。
なので、会社が負担してるのは最初のときだけなんですよ。
でもそれを普段する必要もなく、「どうせ辞めるんでしょ」という会社が多いから、そのまま払わずに辞めて終わりってパターンが多くて。
だからこそ僕はできるだけ会社として支援しています。
インタビュアー:
やはり美容業界の中ではまだまだ制度が整備されていないことが多いのかな、と感じますが、こちらの制度を整えるにあたって抵抗などなかったのでしょうか。
古藤さん:
抵抗はあまりありませんでしたね。
僕が今純粋に思っているのが、せっかく人がこうやって沢山入ってきてくれて、自分自身も、勿論アシスタントであったりスタイリストをやっているときより今の方がかなり良い暮らしをさせてもらっているので、スタッフたちに還元してあげたいなと。
自分の場合はお金はほどほどあれば十分なので、であればその分、今の子たちを経営者にしてあげたり、福利厚生を充実させてあげたりしたいなと思っています。
あとは労働時間も今少しずつ変えています。それだけでなく休みを増やす、給料を良くするなど。今までの美容業界が全然それができていないので。
インタビュアー:
今までの美容業界ができていないから自分たちもできないのではなく、できていないからこそ制度を整えているのですね。ちなみに、なぜ美容業界はこのようなことができていないと思われますか?
古藤さん:
集客がまずできていない、対応ができていない、教育ができていない、だから給料も安いっていう形になってしまうと思うんですよ。福利厚生も同じような理由で出来ていないと思います。
その点ウチは、お客さんが沢山来る状態をとにかく1年目でまず考えて、集客が大事だなと。2年目で求人が一番。3年目は教育で一番。4年目で現在の仕組み作りをして、5年目にグランドデビューして、来たる2020年にフランチャイズ展開。このように目標を立てて、今言った“できない”ものたちをできるように取り組んでいます。
そういえば自分が前の会社を辞める際、スタッフが40名ついてきてくれたんですよ。
インタビュアー:
そんなについてきてくれたんですか!?
古藤さん:
ええ、最初から。というのも、前の会社の時に僕は戦術の類まで経営に深く携わっていたんです。
僕たちがいるので、社長も出なくて良い程でした。そんな事情や、僕たちが色々行なったりサロンの状態を立て直したりするのをスタッフが見てくれていたんです。
それでいざ自分が抜ける時、その子たちは前の会社に戻るのか、辞めて僕の会社に付いてくるのか、ということになりました。僕としては「半分ついてきてくれればいいな」と思っていたのですが、想像以上に僕についてきてくれました。
だから、彼らに良くしなければついてきてくれた意味がないのではないかと。
インタビュアー:
なるほど。そういった古藤さんの想いもあったのですね。
古藤さん:
はい。本当に美容業界は制度が整っていないと痛感するんです。
例えば、保険証も他の人のを借りて歯医者に行くことや、銀行でロックされてなど、そういうことがザラにあるんですよ。
しかし、自分で払えと言ってまだ20歳の子がちゃんと計算して住民税などのためにお金貯めておくのは無理だと思うんですよね。
インタビュアー:
そうですね。なかなか難しいのではと思います。
古藤さん:
そういう現状を目の当たりにして、僕は美容師として美容室を経営して、少なくとも、今よりは良い状況に変えてから次の世代に引き継いでいきたいという想いがすごく強くなっていて。
福利厚生は今すごく声を大きくして言われていますし。この先の世代では絶対もっと良くなると思うんですよね。
美容師の引き抜きとかも問題になっていますが、本当はそういうのもOKにすべきではないでしょうか。ダメな会社は潰れるべきで、ちゃんと考えてやっている会社が残っていくべきだと思うんです。
ただ、まだ僕の会社だと力が無いためあまり偉そうなことはまだ言えないのですが、本来であればそれがあるべき姿だと思います。
引き抜かれてしまうから会社の内容をもっと良くしないとと思っても良いわけじゃないですか。採用についても人材確保のために改善していかなければ、という流れになることが良いと僕は思っています。
自分が経営するに当たって、今の現状を改善してもっと良くなるようにやっていかないとわざわざ経営者になった意味もないですし、せっかく美容業界にも入っているので業界の現状を少しでも改善したいなって思いでやっていますね。
インタビュアー:
ついてきたスタッフへの想い応えるだけでなく、これからの美容師たちの現状を変えていこうと取り組まれているのですね。
それでは次回、古藤さんがhair resort Aiで行っている教育についてお聞きしたいと思います。